「賃金デジタル払い」で制度設計案 「労使間で隔たり」労政審、議論継続

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分科会長、厚労省に今後の進め方で検討要請

 労働政策審議会労働条件分科会は4月19日、キャッシュレス化の促進や多様な賃金支払いのニーズに対応する「賃金デジタル払い」について議論を続行。1月以降の議論を踏まえ、厚生労働省が「資金移動業者を活用する制度設計案」を提示しました。課題解消に向けた仕組みや対応を盛り込んだ提案で、公労使が活発な議論を展開しましたが、着地点を見出せないまま時間切れ。荒木尚志分科会長は「労使間の意見の隔たり、委員間での理解の相違などが依然として残っている。議論していきたい」と述べ、厚労省に今後の進め方について検討するよう求めました。

 「賃金デジタル払い」は、企業が労働者の希望に応じて、銀行口座を介さずに給与の全部または一部を決済アプリなどに振り込むことを可能にする仕組み。実現するためには、「通貨で直接、労働者に全額支払う」と定める労働基準法第24条の省令改正が必要で、現在、例外で認めている「銀行」に「資金移動業者」を加えなければなりません。
 金融庁に登録しているキャッシュレス決済サービス事業者は、2020年12月現在で80社あり、解禁する場合には厚労省が安全性などの基準を設けて指定します。
 同分科会での議論は、1月28日に実質スタートし、今回で4回目。政府は昨年7月の閣議決定で「20年度内の早期に制度化をはかる」としていましたが、同分科会の議論は難航しています。この日、解禁に向けて動かすことを狙って提案した厚労省の制度設計案の骨子によると、資金移動業者の口座への賃金支払いにおいて使用者が労働者に強制しないことを前提とし、事業者は厚労相が指定。厚労相は指定を取り消すこともできます。
 指定の要件として、(1)債務履行が困難になった場合に、債務を速やかに保証する仕組みを有している(2)不正取引などが生じた場合に損失補償をする仕組みを有している(3)現金自動支払機(ATM)を利用することで口座への資金移動にかかる額(1円単位)の受け取りができ、少なくとも毎月1回は手数料負担なく換金できる(4)業務の実施状況や財務状況を厚労相に報告できる体制を有している(5)業務を適正・確実に遂行できる技術的能力を有し、社会的信用がある――の5つすべてを満たしていることを挙げました。
 そのうえで、課題となっていた「労働者の同意」や「資金移動業者の指定要件」「指定・取り消し」などに関する具体的な対応方針を示しました。制度設計案の議論に入る前に、労働者側は「労働者保護の観点から導入ありき、スケジュールありきは認められないと指摘しているが、厚労省の考え方を聞きたい」と確認。厚労省は「21年度内のできるだけ早期の制度化を目指すものの、提示した議論に資するための設計案にご意見をいただき、丁寧な審議会運営を図っていく」と回答しました。
 この日の議論には、前回会合で委員から求められていた金融庁職員も出席し、答弁に加わりました。意見や指摘をまとめると、制度化に反発する労働者側に加え、使用者側の一部も「支払い方法が現在より面倒または負担が多くなるのでは」「資金移動業者にトラブルが発生した場合、(その業者を選んだ)企業側の責任範囲はどの程度なのか」といった慎重姿勢が目立ち、全体としては課題解決の仕組みづくりをわきに置いた「拙速決着」は避けたいとする雰囲気が大勢を占めています。

利用上場企業は703社、雇調金特例

 東京商工リサーチが4月19日発表した上場企業の雇用調整助成金(雇調金)調査によると、昨年4月から始まった雇調金の特例措置が3月末で1年が経過し、雇調金を計上・申請した企業は703社、計上額は3633億9980万円だったことがわかりました。企業数は上場企業全体の18.3%に上ります。業種別では製造業が271社、計上額約776億円で最も多く、観光を含むサービス業が各139社、約753億円となっています。


取材・文責
(株)アドバンスニュース

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